本プロジェクトは、マルチスピーシーズ研究の視点を参照しながら、スピーシーズが単位となる生物学的な分類の認識論的な限界を超えて、人間の知識、記憶や想像に、またその外に存在する「生」の様々な形と「命」の異なるあり方を探る「マルチ・ライフ人文学」の構築を目的としている。そこで、日本の歴史・社会・文化において人間でない生物が持つ主体性と彼らが人間経験の形成に果たす役割に分析を加える。研究代表者の黄は江戸時代から太平洋戦争にかけて、飢饉・災害・戦争を含めた非常時における薬草の利用を考察し、植物の医療的価値に関する知識の変容を歴史学・無知学・医療人文学の立場から問う。研究分担者の越智は、大学における献体・実験動物の慰霊・追悼実践や儀礼空間の変遷の考察を通じて、大学や研究機関における「近代科学的合理性」と「宗教的・感情的なケア(供養)」がどのように共存し、科学者の倫理的葛藤を補完しているかを文化人類学的に論じる。
知的多様性に対する取り組みとして、「統合日本学」における歴史学・人類学と医学・薬学・生命科学の知見を融合する学際的な協働モデルの開発も目指す。