身体観の日本-海外比較研究

共同研究

身体観の日本-海外比較研究

研究期間 2025年8月 - 
研究代表者 阿部 恒之(文学研究科 教授)

研究概要

 日本を含む東アジアでは、いまだにタトゥーに対する忌避反応が強いが、欧州ではタトゥーをする人は珍しくないなど、自分の身体をどう捉えているか、どう扱うかという「身体観」には、文化差が存在している。本申請プロジェクトは、最終的には、身体観の文化差が何に起因し、いかなる影響をもたらしているかを明らかにすることを目指すが、本提案においては、文化によって身体観にどのような違いを生じているかを明らかにすることを到達目標とする。

 身体観の測定尺度のうち、身体表現リストについては、東北大学総合知デジタルアーカイブを活用し、用語をリストアップして新たに作成する。例えば、「こわばっている」という表現が、身体表現、心理表現としてどの程度自然かを問い、身体表現と心理表現の融合の程度を算出する。対象国は日本以外に、多くの女性が神と上半身を覆うヒジャブを着用するインドネシア、上座部仏教徒の多いタイ、仏教・道教・民間信仰が比較的多い台湾におけるデータ収集を計画している。

研究メンバー

阿部 恒之

研究代表者
東北大学 大学院文学研究科 教授

専門分野:心理学

荒井 崇史

東北大学 大学院文学研究科 教授

専門分野:心理学

その他参画者

Yuliana Hanami
(パジャジャラン大学 心理学部 助教)
ジュターチップ ウイワッタナーパンツオン
(チュラロンコン大学 心理学部 准教授)

研究成果

■学会発表■
The 3rd Thailand International Conference of Psychology
 2025年7月15-16日 タイ, バンコック(マンダリンホテル)

 阿部恒之教授と荒井崇史教授、そして10名の東北大生が参加し、発表や議論を行った。日本と東南アジアにおける身体観の違いを、現地の研究者や学生と議論する貴重な機会を得た。
 

▼ Tsuneyuki, A. (2025). Psychophysiological influence of Cosmetic behavior. 

 Engaging the Senses to Improve Mood, Mind, and Performanceと題したパネルディスカッションにおいて、クイーンズランド大学(豪州)・香港大学(中国)の演者とともに話題提供を行い、チュラロンコン大学(タイ)の司会者のもと、議論を行った。化粧行為が身体観と密接にかかわり、様々な心理的効果をもたらすことを論じた。

▼ Qiao, S. (2025). Effects of facial expressions on first impressions. 

 本研究は、幸福・怒り・嫌悪・悲しみ・中性表情が初対面の印象(魅力度・信頼性・支配性)に与える影響を検討し、魅力度と信頼性は、幸福表情で高まり、怒り・嫌悪・悲しみは低下させた。支配性は怒りが評価を高め、悲しみは低下させた。また性差も観察され、特に幸福表情が男性顔においてのみ支配性を下げることが示された。参加者からは研究の妥当性や性差に関する知見に関心が寄せられた。

▼ Yoda, K. (2025). An ensemble representation of faces is the average face, isn’t it?

 複数の物体の平均やばらつきなどの統計的要約を瞬時に読み取ることができるアンサンブル知覚は様々な物体については確認されていたが、顔については明らかではなかった。本研究は、平均顔に用いる顔の数を操作することによって、顔のアンサンブル表象が平均顔であることを明らかにした。参加者からは「タイで同様の実験を行っても同じ結果になるか」といった文化差に関する質問が寄せられた。研究を異なる視点から捉える契機となり、有意義な経験となった。

 

■学会発表■
The 2nd Asian International Conference on Psychology
 2025年7月17日 タイ, バンコック(チュラロンコン大学)

 上記The 3rd Thailand International Conference of Psychologyに引き続き、同じメンバーで当学会に参加した。この学会における発表を通じて、さらにはタイの建造物や伝統・風俗を直接体験することで、身体観の文化差に関する知見を深めることができた。
 

▼ Qiao, S. (2025). Facial viewpoint modulates emotional influence on risk-taking in a balloon analog risk task. 

 本発表は表情がリスク評価・対処に及ぼす影響を検討する実験計画の報告であった。表情(幸福・怒り・恐怖・中性)が修正版Balloon Analogue Risk課題におけるリスク行動にどのような影響を及ぼすかを検討する実験計画を発表したところ、刺激提示方法や課題設計の新規性に対して関心が寄せられ、後の分析方針に関する有益な助言を受けることができた。また、将来的な共同研究につながる交流を築くことができた。

▼ Yoda, K. (2025). Does the average face of a group affect the cheerleader effect? 

 チアリーダー効果は、集団の平均顔の影響を受けて、個々の顔の魅力度が高く評価されるとされる現象である。しかし、平均顔の影響を実証的に示した研究はなく、本研究はその点を検討したものである。

 

■学会発表■
公益社団法人日本心理学会第89回大会
 2025年9月5-7日 仙台(東北学院大学)

 約3,000名の参加者が集う、国内最大規模の心理学の学術大会であり、阿部恒之教授が大会長を務めた。

▼ 荒井崇史・岩間詩音(2025).「かわいい」が引き出すダークサイド―ネガティブな行為によるポジティブ感情の制御―

赤ちゃんやキャラクターなど「かわいい」対象に対して、攻撃的な反応が起こることがあり、これをCute Aggressionという。Cute Aggressionはかわいい対象に対して生じるポジティブな感情を制御するために、ネガティブな感情が生じると仮説立てられている。本研究では,成人に対してもこうした反応が起こるのか、かわいい対象だけではなく、綺麗な対象に対してもこうした反応が生じるかどうかを、表情刺激を用いて検討したものである。学術大会では多くの研究者からの質問を受け、大盛況であった。

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