20世紀後半日本の文学・メディアにおける分断された現実の媒介

共同研究

20世紀後半日本の文学・メディアにおける分断された現実の媒介

研究期間 2025年8月 - 
研究代表者 タイルンロート・アジャナー(統合日本学センター 助教)

研究概要

 本共同研究プロジェクトは、現代日本の文学・メディア表現が「分断された現実(fractured realities)」をいかに媒介し、構築してきたのかを、学際的・メディア横断的な視点から検討するものである。「分断された現実」とは、トラウマ、プレカリティ(不安定性)、インフラの暴力 (structural violence)、環境危機、情動的な違和感(affective dissonance)などといった要素により断片化された、重層的・変動的なリアリティを指す。本研究は、1960年代から2000年代にかけて、日本社会における歴史的・経済的・感覚的な断絶と変容が、文学やメディアにどのように表象され、いかに「現実」(または「非現実」)の再構築へとつながってきたのかを明らかにする。

 対象とする時代背景には、1960〜70年代に学生運動やウーマンリブ運動、ニューウェーブ映画や自主映画の台頭、高度経済成長と都市の再開発、郊外化・ジェントリフィケーションの進行が見られた。80~90年代には消費社会の成熟とともに、「ライフスタイル」や「感性」などのカテゴリーが文化表現に大きな影響を与える一方、バブル崩壊や阪神・淡路大震災などの危機によって、不安定さが現実に対する感覚・体験に影響を及ぼした。2000年代以降は、非正規雇用の拡大、ポスト冷戦期の国家観の揺らぎが「現実感」に新たな緊張感をもたらした。本研究は、こうした歴史的転換点における文学・メディアの応答として、どのような形式的・感覚的な創造が現れたのかを探究し、「現実」とは何か、いかに再構築・認識されるのか、または不確実性や危機、変容の時代において、文学やメディアは「現実」という概念そのものをいかに創造するのか、という問いに取り組むこと目的とする。学際的な方法論を軸とし、複数のメディアを横断的に扱い、形式・ジャンル・表象の交差に関する新たな理解・枠組みを構築することを目指す。キーワードとしては、「現実・非現実」「不安」「感覚」「身体性」「怪異」「ホラー」「モンスター性」「非人間的存在」「都市空間」「オカルト」「メデイア・ミックス」「違和感」などが想定される。

 本プロジェクトは、こうしたテーマの分析を通して、日本の文学・メデイアにおける「リアリティ」の概念を再考することを目的とする。同時に、「日本的特異性」や「神秘性」といったオリエンタリズム的視座に関して意義を唱え、学際的な方法論を軸とし、文学・映像・視覚メディアなど複数のメディアを横断的に扱い、形式・ジャンル・身体性の交差に関する新たな理論枠組みを構築することを目指す。また、東北大学総合知デジタルアーカイブ等の資料を活用しながら、学内外の研究者・海外の研究者・大学院生との連携のもとで研究を進め、最終的には国際シンポジウムを通じて成果を共有し、研究成果の発信と継続的な研究基盤の構築を目指す。

研究メンバー

タイルンロート・アジャナー

研究代表者
東北大学 統合日本学センター 助教

専門分野:現代日本文学

茂木 謙之介

東北大学 大学院文学研究科 准教授

専門分野:現代日本学

その他参画者

Junnan Chen
(NYU Shanghai, Interactive Media Arts, Assistant Professor)

・Franz Prichard
(Florida State University, Department of Modern Languages and Linguistics, Associate Professor)

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